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宗教建築
宗教建築は、特定の宗教儀式や儀式を行うため、またはその宗教の信者によって使用される建築物を指します。
これらの建物は、祈り、崇拝、教育、集会、およびその他の宗教的な活動を支援するために設計されました。
そして宗教ごとに建築様式はさまざまです。
世界を代表する宗教である、キリスト教、イスラム教、仏教、ヒンドゥー教、そしてユダヤ教から、それぞれの宗教建築をみていきます。
何となく知っておくだけでも、旅するときの洞察力と充実感が上がります。
キリスト教聖堂建築
313年のミラノ勅令によりローマ帝国内でキリスト教が公認されました。
キリスト教徒が集まって宗教活動を行うための施設としてキリスト教聖堂がつくられます。
平面からみた形式で以下の4つに大きく分類されます。
なお原則として、西側に入口があって、東側に祭壇がある構造になっています。
①バシリカ式
バシリカとは、古代ローマ時代に裁判所や商業取引所とされた長方形の建物のことです。
バシリカ式聖堂は、「入口」から「廊下」、奥の祭壇がある「内陣」に向かって、3つの空間で構成されます。
廊下の真ん中の空間を「身廊(しんろう)」、列柱で区切られた外側の空間を「側廊(そくろう)」と呼び、列柱が左右にあるものを「三廊式」、列柱が左右2列あるものを「五廊式」と言います。
サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂(ローマ)は、ローマの4大バシリカの一つに数えられ、ローマのバシリカ様式の聖堂では唯一原構造を残しています。
地母神キュベレの神殿があった場所に築かれたとされ、アヴィニョン捕囚から戻ったローマ教皇が、一時的に教皇宮殿として用いたことで知られます。
②ラテン十字形
ラテン十字は、長軸と短軸がクロスする、いわゆる一般的な十字架の形のことです。
バシリカ式が発展した様式で、平面からみると長軸と短軸がクロスする十字形をしています。
短軸の両端には「翼廊(よくろう)」、後陣(アプス・アプシス)にある祭壇の背後に「周歩廊(しゅうほろう)」といった通路が設けられています。
ノートルダム大聖堂(パリ)は、ラテン十字形の様式を持つ一例です。
セーヌ川のシテ島にある大聖堂の場所では、ローマ時代にユピテル神を祀っていました。
12世紀末から築かれた初期ゴシック建築の傑作であり、世界文化遺産にも登録。
2019年の大規模火災により現在は復興中です。
③集中式
各要素が中心へと集中する様式です。
中心部分に身廊、外側に周歩廊。
平面からみると円形や多角形で、垂直方向が意識されます。
屋根が石造の場合はドーム形、木造の場合は円錐形となります。
聖人の遺骸や遺品を中央に安置する記念堂、中央に洗礼盤を置く洗礼堂に用いられます。
パリのモンマルトルの丘にそびえるサクレ・クール聖堂は、集中式の様式を持っています。
巨大なドームを持ち、教会中央から放射状に広がる設計。
第三共和政時代に建設が始まり、普仏戦争(1870)、パリ・コミューン(1871)により命を失ったフランス市民を讃える公共建造物として知られています。
④ギリシャ十字形
集中式が発展した様式です。
ギリシャ十字は、縦軸と横軸の長さが等しい正十字形。
中心部に身廊があり、屋根には複数のドームがあります。
東方正教会の主流形式となっており、その起源はビザンチン建築に見られます。
アヤ・ソフィア(イスタンブール)は、現在はモスクの様式をとっていますが、元々はビザンツ帝国のキリスト教会建築であり、大きな中央ドームと4つの等しい腕を持つ十時形の構造を持っています。
また、東方教会の一派であるロシア正教会は葱坊主形ドームの構造を持ちます。
キージ島の木造教会プレオブラジェンスカヤ教会は、16世紀に建てられ焼失後、1714年に再建されたものです。
ロシア正教の十字架を頂く葱坊主形ドームが22箇所配されています。
イスラム寺院建築
ムハンマドが神の啓示を信者に伝えた自宅中庭が、イスラム教の礼拝堂モスク(「平伏を行う場所(マスジド)」の意味)の起源とされます。
偶像崇拝を禁じているため、祭壇や像は置かれていません。
柱、壁面、燭台には「アラベスク」という幾何学的文様(植物や動物の形をもととする)を反復したものが施されています。
内部には、ミフラーブ(壁龕:へきがん)という聖地メッカの方角を示す壁面に設けられた窪みや、その右側にミンバルという説教やコーランの朗唱を行う説教壇が設置されています。
外郭には、モスクへの礼拝の呼びかけを行う尖塔ミナレットやドームが付属しています。
代表的な以下の3つの分類があります。
①多柱式
ムハンマドのメディナ住宅にならったといわれる形式。
木柱、石柱またはレンガでつくられた断面の大きい柱を等間隔に並べることが基本の様式です。
シリアのダマスクスにあるウマイヤ・モスクは多柱式の様式を持っています。
ウマイヤ・モスクは、世界で最も古いイスラーム教の礼拝所のひとつ。
古くは雷神ハダドを祀る神殿があり、4世紀末にキリスト教会が建てられました。
その後、634年のムスリムによるダマスクス征服後の8世紀前半にモスクに改装されました。
②前方開放式(4イーワーン形式)
中庭を囲む四辺に、中庭を向いた4つの空間「イーワーン」を配した形式。
イスファハーンのジャーメ・モスク(金曜のモスク)は前方開放式のモスクです。
771年に建築されたイスファハーンで最も古いモスクで、世界文化遺産になっています。
③中央会堂式
14世紀以降に見られ16〜17世紀に最盛期を迎えたビザンツ帝国の影響を受ける形式です。
大小の複数屋根を持っているのが特徴。
イスタンブールのスルタンアフメト・モスク(ブルーモスク)は中央会堂式の特徴を持ちます。
オスマン帝国の第14代スルタン・アフメト1世によって1616年に建造され、設計はメフメト・アーが担当しました。
内部には、イズニク製の青い装飾タイルやステンドグラスが施され、その美しさからブルーモスクとも呼ばれ、世界文化遺産になっています。
(関連記事:イスタンブルの歴史地区)
仏教寺院建築
仏教の開祖ブッダ(仏陀)の遺骨を納めたストゥーパ(仏塔)を中心に発展してきました。
ストゥーパは、基壇の上に立つ伏鉢、ドーム状の建物のことです。
最古はインドのボーパール東北に位置する、サーンチー仏教遺跡の第1ストゥーパです。
アショーカ王の仏塔がほぼ完全な形で残されていることで有名です。
次第に仏教寺院建築は、ストゥーパをまつる祠堂、修行僧が住む僧院が、基本要素となっていきます。
東南アジア・インドネシアのジャワ島ボロブドゥール仏教寺院群などでは、基壇上に小ストゥーパと祠堂が積み重なった形状をとっています。
周囲に回廊が設けられ、建物全体が立体的な曼荼羅構造となっています。
ボロブドゥールは大規模な仏教遺跡で、ミャンマーのバガン、カンボジアのアンコール・ワットと並ぶ東南アジアを代表する遺跡であり、世界文化遺産となっています。
一方、シルクロード経由で中国に伝来したストゥーパは、中国古来の楼閣建築と融合して層塔となり、三重、五重、七重塔が生まれました。
古都・長安(西安)に残る大雁塔は、652年に唐の高僧・玄奘三蔵がインドから持ち帰った経典や仏像などを保存するために、唐の高宗に申し出て建立した塔です(大慈恩寺の境内。7層64m)。
さらに朝鮮半島を経由した日本のストゥーパは、法隆寺・五重塔などの塔建築へとつながりました。
法隆寺は推古15(607)年に創建され、古代寺院の姿を現在に伝える仏教施設であり、聖徳太子ゆかりの寺院です。
金堂、五重塔を中心とする西院伽藍と、夢殿を中心とした東院伽藍に分けられ、西院伽藍は現存する世界最古の木造建築物群です。
ヒンドゥー教寺院建築
ヒンドゥー教では寺院は「神の家」とされ、内部には神像が飾られています。
構成要素として、中枢には神像を安置する聖室「ガルバ・グリハ(子宮)」、ガルバ・グリハのある本堂「ヴィマーナ(神を乗せる車)」、ヴィマーナの前面にある拝堂「マンダパ」があります。
ヴィマーナとマンダパの組み合わせが、ヒンドゥー教寺院の基本形です。
ジャワ島には、マンダパを持たない搭状のヒンドゥー教寺院が多く見られます。
中世に北方型と南方型に分化して発展しました。
両者の違いは主に、ヴィマーナの上に配された塔「シカラ(頂)」の形状の違いに表れます。
①北方型
本堂ヴィマーナの上部が、砲弾形の尖塔となっており、尖塔の全体(頂塔部マスタカ及び塔身部ガンディ)を「シカラ」と呼びます。
世界文化遺産であるインドのエローラー石窟寺院群には、仏教、ジャイナ教、そしてヒンドゥー教と複数の宗教遺跡が残っています。
第16窟カイラーサナータ寺院は、北方型の様式を残すヒンドゥー教寺院です。
ラーシュトラクータ朝の君主クリシュナ1世(位756年 - 775年)の命により、カイラス山(須弥山)をイメージして一枚岩から掘られた石窟寺院で、シヴァ神を祀るガルバ・グリハがあり、古代インド叙事詩『マハーバーラタ』や『ラーマーヤナ』の世界観が刻まれています。
②南方型
ヴィマーナ上部に、小さな祠堂や彫刻群が横に並べられ階段状に積み重なったピラミッド形となっており、頂部には小型屋根が配され、この部分のみを「シカラ」と呼んでいます。
世界文化遺産の大チョーラ朝寺院群を構成するブリハディーシュヴァラ寺院は、南方型の様式を残しています。
この寺院は、南インドを支配したタミル系チョーラ朝が全盛期に建立した寺院で、11世紀初頭にラージャラージャ1世が首都タンジャーヴールに建てたものです。
ユダヤ教シナゴーグ建築
聖書には「会堂」の名で登場し、ユダヤ教会と俗称されます。
ローマ帝国によるエルサレム神殿破壊後、各地に離散したユダヤ人の宗教生活の中心で、聖書の朗読と解説を行う集会所でした。
構成要素として、トーラー(ユダヤ教の聖書)の朗読が行われる場所で中央または正面に配置される読壇「バイマ」、トーラーの巻物を保管する聖櫃でエルサレムを向いた壁に設置される「アロン・ハコーデシュ」、常に灯されるランプまたは電灯で神の永遠性を象徴する「エターナル・ライト」、星形のデザイン「ダビデの星(六芒星)」があります。
ブダペストの大シナゴーグ(ドホーニ街シナゴーグ)は、ヨーロッパで最大、世界で2番目に大きなシナゴーグで、モーリッシュ様式の建築で知られています。
1854年から1859年にかけて建設され、設計はドイツの建築家ルートヴィッヒ・フォルスターによるものです。
まとめ
人間の信仰という抽象度の高いものを、具現化したものが宗教建築です。
そして、その建築様式は他の用途の建築や文化にも影響していきました。
その意味で、宗教建築を知ることは、多くの建築や文化を知っていく上でキーストーンとなるものです。
また、アヤ・ソフィア(トルコ)やエローラー石窟寺院群(インド)のような複数の宗教が溶け込む建築には、一段と歴史的深みがあるように思えます。
世界の5大宗教とともに学ぶと、より世界のことが見えてきて面白いかもしれません。